「税務署は見ている」飯田真弓著~税務調査の基礎知識~

税理士 平林夕佳

税務署出身の飯田真弓氏の著書、「税務署は見ている」。納税者の気が付かないところで税務署は納税者の何を見ているでしょうか。
テレビドラマにあった「家政婦は見た」のように、ひっそりと誰かが納税者を見ているのかもしれません。

 

 

税務調査の対象となる法人は年間で全体の5%前後、個人は年間で全体の1%前後です。

国税局と税務署の税務調査官

税務署から「税務調査」について電話が掛かってくることがありますが、税務調査の対象となる会社はどのように選定されているのでしょうか?
調査対象に挙がった理由などは説明されないので、何が原因で調査対象に挙がったのかは一般の人からすると謎に包まれています。
今回ご紹介する本には、経営者の方が一度は疑問に思った「税務調査の対象に挙がる会社の特徴」と「こんな時、どうする?」が書かれており、経営者は一度目を通しておくと良い内容が書かれています。

税理士業に携わる者でも、「税務署の調査官は、こういうことを考えているんだ。」と新鮮に覚える部分もありました。

著者の飯田真弓氏の経歴も興味深いです。1982年に高校を卒業したあと、女子1期生として税務署に就職、26年間国税調査官として所轄の税務署で税務調査に携わっておられました。
税務調査と聞くと映画の影響もあって「マルサ」と思われることが多いようですが、マルサと税務署の国税調査官は違うようで、本でもたびたび「マルサではない」と書かれています。

国税局と税務署に所属する税務調査官は、それぞれ以下のとおりです。

●税務調査官

国税局 査察部(マルサ)
資料調査課
税務署
特別調査
一般調査

※ マルサは国税局の組織に所属する。

さて、今回ご紹介する本の著者、飯田真弓氏は税務署に所属していたので、税務署の税務調査官の視点で本をお書きになっています。

調査の対象となる会社は、どのように選ぶのか?

「どんな会社が税務調査に選ばれやすいか?」と、直球で質問されることがあるようですが、KSK(国税総合管理システム)に入力された情報を参考にして、調査対象を絞っていくようです。

KSKについては、先日投稿した記事「平成30事務年度、相続税の調査等の状況(国税庁ホームページより)2019年12月23日 投稿」でも触れましたが、納税者の状況をデータベースにして、常に状況を把握できるようにしているのでしょう。

そして意外にも「タレコミ」で調査対象に浮上することもあるようです。元奥さん、元愛人、社長の右腕だった役員、元従業員など内部事情に詳しい人からの通報は、信ぴょう性が高い情報です。

このように様々な手段から収集した情報が、標準値からかけ離れていると、調査対象として浮かび上がりやすいのです。

税務調査官に言ってはいけないキーワード

本書では、業界に携わる者として興味深く「へー、そういうところを見てるのか」と、参考になる記述が多かったのですが、一番面白かったのが「税務調査官を燃えさせる3つの言葉」です。

税務調査官は招かれざる客ですから、やり取りの中で経営者が感情的になり、つい言ってしまう言葉に、

1.そんな何年も前の話、覚えてるわけないだろ!
2.全部顧問税理士と経理担当者に任せてあるんだ!
3.勝手に調べてくれ!

この3つのワードが出てくると、税務調査官もムッとくるようです。

1.「そんな何年も前の話…」
覚えていないのなら、原始資料をひっくり返して調べましょう、となります。
原始資料が見つからないなら、現況調査(ガサ入れ)して調べることになります。

2.「全部顧問税理士と経理担当者に…」
調査官からすると、この経営者は税務や会計などに無関心だと思われて、
役員や社員の勝手な判断が不正につながっているかもしれないと感じます。

3.「勝手に調べてくれ!」
これだけは言ってはいけません。勝手に調べてくれと言われれば、
税務調査官は心の中でガッツポーズをしているに違いありません。

 

★まとめ★
税務調査の対象になる会社は、どうやって決められるのか?
表には出てこないお話でとても興味深く本を一気に読んでしまいました。
飯田真弓氏の本も、語り口調で書かれていてすらすら読める内容でした。
元国税調査官による税務署の暴露本というより、飯田氏が一番言いたいのは
「正しい申告、正しく納税。」だということが伝わってくる本でした。
税務調査官が「この会社は調査したくない」と思う会社は、
正しく申告していて、ほじくるところが何もない会社だそうです。

 

 

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