踊る町工場、社員15倍、工場見学者300倍の伝統産業-2-
税理士 平林夕佳
「踊る町工場、社員15倍、工場見学者300倍の伝統産業-1-」の続きです。
「踊る町工場」, 能作克治, より 。
㈱能作、400年の歴史を忘れず現代のニーズを探る
㈱能作は、富山県高岡市の伝統産業、鋳物の製造業の会社です。伝統産業の歴史は400年ですから、富山県高岡市では鋳物が高岡市の顔ともいえる産業です。
㈱能作の社長、能作克治さんは「工場見学に来た母親の一言( 踊る町工場、社員15倍、工場見学者300倍の伝統産業-1- 参照。)」を聞いて、一念発起し、「ノーサクプラン」を作成しました。
ノーサクプランは昭和60年4月15日に作成され、「5年計画」をもって実行できうるものを書き記したプランです。本書の10、11ページに能作さんの手書きでそのまま掲載されており、基本方針とそれに対する具体案、その具体案を実現する手段をさらに細かくメモしています。
従来の伝統産業、職人の仕事といえば、良いものを作れば気に入った人が買ってくれるという発想だと思いますが、自分が良いと思ったものと他の人が良いと思うものは必ずしも一致しませんので、良いものを世に送り出すためには具体的な計画をする必要があります。
これは、すかいらーく創業者の横川竟さんがカンブリア宮殿の放送でおっしゃっていました(「カンブリア宮殿、すかいらーく創業者が語る復活のヒント」参照)。
能作さんも世間のニーズを探るべく、情報収集に力を入れているのが「ノーサクプラン」から伺えます。情報収集手段として、プラン作成時はデザイナーを交えた開発会議や問屋からの情報収集が挙げられています。
情報収集をしてモノづくりしたら、次に広告しなくては良いものを作っても売れません。広告手段は展示会への出展と、能作の工場を観光ルートの一端にすることでした。
㈱能作の柔軟な発想力を生み出す7つのルール
伝統産業というと、飾っておくものというイメージが私には強く、売りにくいものが多い印象です。
能作さんのプランでは、美術品ではなく生活に密着した商品を作ることでした。
そしてデザイン性が高く高機能の商品を展示会に出展することで「能作」のブランドを作り上げました。
伝統技術を伝統工芸品としてではなく身近なものづくりに発展させるには、柔軟な発想力が必要であると能作さんは言ってます。伝統的でありながらも革新的なアイデアを具体化するには次の「7つのルール」を心がけているようです。
1.人のまねをしない
2.素材の性質を知り尽くす
3.他人の考えを否定しない(自分の考えに固執しない)
4.美術品ではなく「生活に密着した製品」をつくる
5.蜘蛛の巣を張り巡らせて、情報をキャッチする
6.デザイン力を磨く
7.「軸」から外れない
人のまねをしない、他人の考えを否定しない(自分の考えに固執しない)、新しい情報に敏感、「軸」から外れない、ということは、ビジネス本の多くに書かれています。組織作り、新しいことへのチャレンジには必要なことだと思います。
㈱能作には営業部門が無いのに売上が10倍の不思議
㈱能作には営業部門というのが無いのだそうです。良いものを作っても営業部門が無ければ世に出ず埋もれてしまうと考えてしまいます。
自社商品開発・販売には6つのルールを設けています。
1.自社のオリジナル商品のみ直販する
2.小売店がすでに問屋と取引がある場合は、問屋経由とする
3.営業部門を作らない
4.「定価」で販売する
5.販路を絞らない
6.店舗は直営にこだわる
独自に開発した商品は直販するが、産地の問屋で扱っている仏具、茶道具などは従来通り問屋に卸すことで、地元や問屋との信頼関係を壊さないようにしています。問屋を通すものと直販するものを分けることで地元の「共存共栄」を保つことができます。
「営業部門を作らない」のも、問屋に迷惑を掛ける可能性があるからだそうです。さらに営業を掛けないことで定価販売を守ることができるという効果があります。
営業部門を作らないという発想も、「営業部隊がいないと物が売れない」という固定観念から外れていて、疑問を持たなかったことに対してもう一度考えてみるということも新しい挑戦には必要なことだと思いました。
★まとめ★
「人のまねをしない」「定価で販売する」という言葉は、安易に値下げ競争に走らないということだと思います。
カンブリア宮殿の放送で横川さんも「安くして売るのは平成の時代、令和はアイデアや個性で価値を付ける時代」とおっしゃっています。
税理士業界でも「YouTuber税理士」や「IT税理士」など、個性を出したこの税理士にしかできない価値を持った税理士が、これからの税理士像になるのだと思いました。
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