踊る町工場、社員15倍、工場見学者300倍の伝統産業-1-

税理士 平林夕佳

富山県高岡市にある伝統産業の会社、株式会社能作の書評です。

 

㈱能作は、どんな会社なのか

株式会社能作は鋳物の伝統産業の会社です。錫で「曲がる食器」を作っている会社といえば思い浮かぶ人もいると思います。私は7~8年前にテレビ東京のWBSで「曲がる食器」を見てこの会社を知りました。

能作公式オンラインショップ曲がるシリーズより

写真のように、くもの巣のような平たい網目の金属が、ぐにゃぐにゃと曲がって籠になるという面白商品です。この曲がる籠を見たとき、欲しい、どこで買えるのかと思いました。

㈱能作のホームページを見てみると、美しいデザインのなかにも、機能的で使いやすそうな商品が並んでます。

例えば、「黒部ダムのぐい呑み」

ぐい呑みに立山の連峰がデザインされていて、何ともユニークなお品です。

 

少し遊んだドラえもんとのコラボ商品などもあります。

 

キティちゃんとのコラボ商品

 

熊本の「くまもん」とのコラボまであります。

 

テレビ東京のWBSで商品を見て、「欲しい!」と思ったときから、このような伝統産業を作っている会社があることは記憶にありましたが、会社がどこにあって、社長がどんな取り組みをしているのかは、詳しくわかりませんでした。

その伝統産業をユニークなかたちで世に送り出している、㈱能作の社長、能作克治氏が「能作」の秘密を出版したので読んでみました。

 

㈱能作の伝統産業は、過酷な職場環境

社長の能作克治氏は、奥様の実家が鋳物の伝統産業を営む会社だったようで、結婚して能作家に養子に入ったようです。それまでは新聞社のカメラマンでしたので、結婚を機に伝統産業の世界に飛び込みました。

伝統産業というと聞こえは良いですが、薄暗く、おじいちゃん、おばあちゃんしかいない工場、下請け仕事からなかなか抜け出せない日々という、私たちがイメージする「伝統産業」そのものが、それまでの能作だったようです。

正直なところ、伝統産業を継ぎたいという若者も少ないですし、このまま伝統産業は世の中から無くなってしまうのではないかと危惧されている産業です。能作社長が入社した直後は、肩書きこそ「専務」と立派でしたが、年収は150万円。そして鋳物職人の仕事は過酷で、流し込む前の溶けた金属はとても熱く、汗と砂で四六時中、体はベトベト。過酷な現場に身を置き、1年間で体重は30Kgも減るハードワークだったと書かれています。

まさに、現代の若者が敬遠する3Kが揃った職場が㈱能作だったのです。伝統工芸を受け継ぐ職人としての誇りが無ければ、気持ちの面で続けていくのも難しいでしょう。

㈱能作に見学に来た何気ない母親の一言

金属を高温で溶かし、伝統工芸品を作る過酷な仕事、美しい伝統工芸の裏では職人が過酷な現場で働いています。能作克治氏も入社後に働いて働いて、働き続けなければ売上げは上がらないという一心で鋳物をつくり続けていました。

ある日、当時にしてはめずらしく、「工場見学がしたい」という親子から連絡が入ります。小学校高学年の男の子とその母親でした。能作さんは嬉しくなって、鋳型の造形の作業をお見せしていると、母親はさほど興味を示さず、それどころか能作さんに聞こえる声で

「よく見なさい。ちゃんと勉強しないと、あのおじさんみたいになるわよ」と言ったのです。

この一言で背中が凍りついた能作さんは「鋳物職人の地位を取り戻す」べく、一念発起したのです。

踊る町工場、社員15倍、工場見学者300倍の伝統産業-2- に続く 》

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