相続税財産評価~預貯金に紐づくマイナンバーの脅威~
税理士 平林夕佳
相続税申告書では、被相続人(亡くなった方)が死亡した時点の財産をすべて申告します。銀行預金も申告の対象ですが、注意すべき点は、過去から亡くなった日までの入出金です。
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被相続人の預金通帳、名義預金も相続財産に入る
口座の名義人が使うのではなく、実際には他の人が使っている口座を名義預金といいます。名義預金の代表的なものは、子(孫)名義の預金通帳を親(祖父母)が勝手に作り、親(祖父母)が口座に入金している口座です。子は親が亡くなったときに初めて、自分名義の口座があることを知ります。
このように名義預金とは、口座の名義と実際に預金している人が異なる預金口座のことをいいます。
税金は「誰」に「いくら」課税するかで納税者と税額が決まりますが、名義預金の場合、「誰」の財産とするかが問題になります。実際に預金していたのは親(祖父母)のため、実質課税の原則に従い名義預金は親(祖父母)の財産とされます。したがって、子名義の預金通帳が出てきても、親が口座に入金していたものでしたら、親の相続税申告に入れて申告します。
昔だと、名義預金の内容まで調べるのは困難だったのかもしれませんが、最近ではマイナンバーが導入されたため、お金の出入りの紐付けが容易になったのではないかと言われています。( 名義預金も、マイナンバーで繋がってしまう 2020年1月16日 投稿)
相続の預金通帳では、過去の入出金を調査する
名義預金を含めて被相続人(亡くなった方)の預金すべてが相続財産として申告の対象ですが、意外と親がどの金融機関に通帳を持っているのか、本人以外知らないことが多いです。
まずは、金融機関へ行き、被相続人名義の預金通帳の「亡くなった日の残高明細書」を発行してもらいましょう。
昔は1つの銀行で口座を複数作ることができたので、複数の口座が登録されていることがあります。メインで使う通帳以外、取引が薄くなり通帳を紛失している口座があるかもしれないので、被相続人名義の亡くなった日のすべての口座の残高明細書を取得します。
残高明細書と保有している預金通帳が合えば、過去の入出金の一覧表を作成します。高額な入出金をチェックして、引き出されたお金がどの通帳に移動されたのかをチェックします。
預貯金の相続税評価で重要なのは、お金の移動先を調べること
A銀行で引出し、そのままB銀行へ入金されていたら、単なる口座の移動ですので問題なしです。
しかし、引き出したお金の移動先が不明なものについて付箋をし、その引出しが何に使われたかを後で調査します。
例えば
・子供の通帳に入っていた→贈与または貸付
・業者への支払いに使った→経費の支払いで問題なし
・どの通帳にも移動していない→現金として持っていないか
となります。預貯金の移動先がどこにあるかで、過去に贈与税申告など適正に申告していたか、申告漏れが無かったかを調べます。
引き出したお金の行き先が不明の場合、現金として持っている可能性があるので金庫やタンス預金を探してみましょう。
相続税の申告は、被相続人が亡くなった時点の預金残高を申告すると思われている方が多いです。しかし、預金については過去の移動をさかのぼって調べることが、何より重要です。そんなに複雑な財産をお持ちではないと思った方でも、預貯金の移動が激しく、その調査に骨を折るというケースがまれにあります。
マイナンバーの普及で預貯金の紐付きが容易になることが考えられるため、過去の預貯金の移動をしっかりとチェックし、申告漏れを防ぐことが大切です。
★まとめ★
最近はネットバンクやネット証券を利用する方が増えたので、保有している口座一覧を作成し、万が一の時に備えておくようにしましょう。「親がどんな財産を持っているのか、よくわからない」相続人の方がほとんどですので、相続人の方の負担を軽くするためにも口座一覧を含めた財産一覧表の作成をお勧めします。