111万円の贈与が「完璧」ではない理由~贈与税申告書は贈与契約書の代わりにならない~

Bericht und Foto :税理士 平林夕佳 geschrieben.

前回の投稿で、「111万円を贈与して贈与税申告書を出しても贈与と認められないときがある」と書きましたが(『名義預金も、マイナンバーで繋がってしまう』2020年1月16日 投稿)、111万円の贈与が完璧ではないのはなぜでしょうか。

 

2002年年始のInnsbruck(オーストリア)。チロル地方への玄関口、雪化粧した山に囲まれた美しい街でした。

 

まず民法上の贈与契約を確認する

贈与と聞くと、私のような業界にいる者はつい「税金がいくらになるか」「どうしたら相続対策に有効か」などと、頭の中で試算が始まってしまうのですが、贈与は民法に規定されている贈与契約、「契約」なのです。

民法第549条を確認すると「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と書かれています。

「贈与」があったかどうかは、「…(贈与者が)自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方(受贈者)が受諾をすることによって、その効力を生ずる」ことから、双方に「あげました」と「もらいました」の意思があって贈与契約があったと認定されます。

そのため名義預金は、お金を預金通帳に入れた人(贈与者)が「お金をあげます」というところまでは、条文の前半に当てはまっている部分ではあります。

しかし、受取った相手(受贈者)は「お金をもらいました」という意思が確認できないので、名義預金の通帳に贈与者が勝手に入金したお金は、贈与ではないと判定されてしまいます。

贈与契約はあくまでも、もらった人(受贈者)が「もらいました」という意思表示を表すことが重要です。「もらいました」を確かなものにするために、「贈与契約書」を交わすようにしましょう。

 

贈与税申告書があっても、なぜ完璧とはいえないのか

金融機関の方から「111万円を子供に贈与して、贈与税申告をすればそれが贈与の証明になりますよね?」と聞かれたことがあります。

その情報をどこから仕入れたのか不明ですが、贈与税申告書では贈与者の「あげました」と受贈者の「もらいました」の意思が確認できない書類のため、贈与があった証明書類としては不完全と言えます。

税金の申告書はあくまでも税務署へ提出する申告書であり、契約書ではありません。

また、所得税確定申告時期に必ず聞かれる質問の一つに「親が確定申告するのですが、子供の私が代わりに提出しに行ってもいいのですか?」という質問があります。

この場合、提出だけでしたらお子さんや奥様が本人に代わって提出しに行っても、窓口で何か言われることはありません。

この所得税の話と、贈与税申告が「贈与契約と認められない話」が、どのように繋がるかというと、「親が子供名義の預金通帳に勝手に111万円を入金し、親が子供の贈与税申告書を勝手に出してしまうことも可能(※)」だからです。

(※) 厳密にいうと、本人以外の人が本人に代わって申告書を作成・提出はできません。税理士法違反になってしまいます。

 

贈与契約書はA4サイズ1枚程度、簡単に作れます

なんとなく「契約書」と聞くと、法律の条文が絡んだり、法的に書き上げるのに難しくないかななどと考えてしまいますが、A4サイズ1枚程度でおさまる内容です。

契約日の日付と、贈与者が受贈者に対して振込により現金を贈与、受贈者名義のどこの銀行口座に、いつ、いくら振り込みます、受贈者はこれを承諾しました、という文言を記載し、最後に署名・押印をする程度です。

 

★まとめ★
贈与とは、民法549条に規定する贈与のことで、贈与者が一方的に「あげます」と言っても、受取る方が「もらいます」という受諾をしていない場合、贈与契約は成立しません。
もらった人が「もらいました」と受諾して初めて贈与契約があったことになります。
その贈与契約を証明するために、贈与契約書を必ず作成しましょう。

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