黒字廃業予定の会社を事業承継、注意点は?

 

by 税理士 平林夕佳

黒字企業でも、後継者がいないと存続できない

組織再編で、第3者へ会社ごと売却することがあります。その背景は、最近よく耳にする後継者不在による売却です。

「社長」は、サラリーマンなら誰もが一度は憧れたことでしょう。特に同族会社の中小企業だと、会社の意思決定はほぼ自分次第。自分が思ったとおりに会社の方向性を決めることができます。

しかし、誰もが憧れる社長職ですが、後継者が見つからず廃業してしまう中小企業が深刻化しています。

昔は、家業を継ぐのが当たり前だったため、後継者がいない会社の方が珍しいことでした。ところが最近は、やりたい仕事があったら後継ぎを身内に強要しない社長が現れるようになりました。

後継者が不在だと会社が存続できません。そのため、たとえ黒字で儲かっている会社だったとしても、社長が決まらなければ廃業となってしまいます。そこで最近は、会社を売却したい人と、その会社を買いたい人のマッチングサイトを見るようになりました。

社長に後継者なし。社員から自分が選ばれそう

数年前、近くに通勤している知人とお昼をご一緒しました。そのとき「会社の社長が高齢で後継者がいない。社員の中から自分が次の社長になるかもしれない」と相談がありました。

知人は、社長職が自分に転がり込んでくるかもしれない、という期待から落ち着かない様子が伝わってきました。儲かっている会社だし、取引先も安定しているため社長になれたら嬉しいと言ってました。

そのとき私は個人事業主だったため、経営者になって気付いたことを話しました。ひととおり話し終えた後、会社の財務状態を質問してみました。

質問した内容は
・買掛金、借入金のこと。
・現金預金、売掛金のこと。

です。実際、会社を買収の際、綿密なデューデリジェンス(企業の財務状況や経営状況の調査)をするため、その時点で会社の財産・債務が明らかになります。しかし、流れで社長に就任し、会社の財務状態が火の車だということが判明したら、心が折れてしまうと思いました。

当然ながら、知人は営業兼技術職だったため、会社の財務状態は把握していませんでした。

役員借入金も会社の債務、返金の義務がある

借入金のうち役員借入金は、社長のポケットマネーで立て替えた支払いです。

後日、社長の立替払いを会社が返金することで役員借入金は消滅します。この社長が支払ったお金を会社が返金しないと、役員借入金が積み上がっていきます。

つまり、役員借入金は社長の退職後も返金しなくてはなりません。また、負債には、取引先からの買掛金や従業員に対する退職金債務、リース契約に基づく将来支払うべき金額なども含まれます。

役員借入金の支払いは経費ではないため、法人税が安くなることはありません。そのため、役員借入金があったら資金繰りの点で困難になることが考えられます。

まとめ

黒字倒産の企業を事業承継する場合、業績が良いというだけで安心してはいけません。

重要なのは、企業が抱えている負債を詳細に確認し、その返済が今後の経営にどのような影響を与えるかを見極めることです。負債の多寡に応じた適切な対策を講じることで、事業承継後の成功確率を高めることができるでしょう。

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