「撮影:竹久直樹」出版トークイベントで考えた撮影音と写真。ゲスト長谷川白紙・中村陽道

トークイベント会場、恵比寿 POST

税理士 平林夕佳

写真家 竹久直樹、「撮影」出版記念トークイベント

2026年8月23日(日)、恵比寿にあるおしゃれな雰囲気の書店「POST」へ行ってきました。
写真家、竹久直樹さんの写真集「撮影」の出版記念トークイベントがあったからです。

イベントはPOSTが閉店してから店内の中央に置いてあった書棚を脇に移動し、そこに椅子を設置して会場づくりをしていました。ライブ会場ではないため、座席数は25席という参加者の限られた、レアなイベントでした。

音楽家の長谷川白紙さんとの対談で「撮影音」について深く語り合う……という事前予告でした。しかし、撮影音だけで1時間30分語るのは難しそう。何を語るのか興味深いイベントだったので参加してみました。

蓋を開けてみると、前半の1時間ほどは竹久直樹さんの「撮影」そのものに対する思想や活動についてのお話が中心でした。

進行は竹久直樹さんがメインで語り、長谷川白紙さんが思考を広げていくスタイル。そして、グラフィックデザイナーの中村陽道さんがモデレーターとして加わり、難解になりがちなアートの話題を、私たち参加者にも分かりやすいように翻訳してくださる姿が印象的でした。

さて正直なところ、私は写真やアートの世界に直接携わっているわけではありません。そのため、聞いたことを後で振り返れるようにノートを取りながらお話を伺ってました。

しかし、竹久直樹さんと長谷川白紙さんのハイレベルなお話に頭が追いつかなくなり、ついノートへ「○」をたくさん書いてしまいました。

手を動かしながら考えると、理解できるような気がして、つい手を動かしてしまいます。

 

 

 

気付けばノートは「○」だらけに……(笑)。
けれど、わからないなりにとても刺激的で、深く考えさせられる要素がたくさん詰まった時間でした。

他人の作品を撮ることが、自分の作品になる?

竹久直樹さんは写真家で、展覧会や美術館の記録撮影にとどまらず、屋外や廃墟、空きビルといった空間での撮影も手掛けられているそうです。

一般的な感覚だと「他人の美術作品を撮影した写真は、あくまでクライアントワーク(記録)」と思ってしまいます。しかし竹久直樹さんの写真集「撮影」の面白さは、他人の作品を記録し続けた結果、それが竹久直樹さん自身の作品になっているという点にあります。

そもそも、カメラが日本に伝わったのは江戸幕末期(1853年~1868年)で、オランダから伝わりました。当時は、撮影に関する技術的なことは問題とされていなかったようで、医師が写真撮影や技術を研究していたとのことでした。そして1862年、上野彦馬が写真局(写真館)を開業し、職業としての写真師となりました。

竹久直樹さんの指摘で興味深かったのは、「日本は作家主義(誰が撮ったか)が根強く、反作家主義的な写真が広がりにくかった。作家と主体が混同されすぎている」という指摘です。写真は誰もが撮れる時代になり、現代における「記録」や「主体性」とは何なのかを、竹久直樹さんは問い直そうとしています。

そういえば学生の時に山のサークルにいたせいか、カメラ好きになる人が多かったです。カメラ好きが高じて、カメラマンになった同級生もいました。

その同級生いわく、「同じ被写体でも、撮影する人によって違う。だから技術を磨く必要がある」と言っていたことを思い出しました。

どこからが撮影なのか、という問い

さて、お話の中で驚いたのは、「撮影の範囲」についての話でした。

竹久直樹さんが万博会場の撮影を行った際、撮影許可証を受け取るために、万博会場から離れた駅で許可を受けなければならなかったそうです。

普通、会場に入ってカメラを構えてからが撮影だと思いがちですが、竹久直樹さんにとっては「離れた駅へ許可証を取りに行くプロセスそのもの」から既に撮影が始まっているとおしゃってました。

これに対して長谷川白紙さんが、「ライブも同じで、会場に入るまでの電車の乗り換えや移動も含めてライブ」と深く頷かれていました。表現者のお二人が互いの感覚を通じ合わせている様子を見て、芸術の奥深さを感じた瞬間でした。

これは、撮影やライブ前から緊張が始まっているということでしょうか。そうだとすると、私が顧問先に訪問する前日から、準備で気が張っていることと同じかもしれません(違うか)。

撮影音がもたらすもの

さて、終盤になり、ようやく「撮影音」についての話題へ。

日本では盗撮防止などの理由もあり、被写体に対して「今撮りました」と知らせる意味があるのか、撮影音を出さないといけない決まりになっているようです。竹久直樹さんは「相手に撮影を知らせるために撮影音があった方がいい」というスタンスでお話しされていました。

ただ、私はこのお話を聞きながら、少し違う視点から撮影音のことを考えていました。

カメラを向けられると、誰しも緊張して顔や体がこわばってしまいます。でも「カシャッ」とシャッター音が鳴った瞬間、一瞬だけ「フッ」と緊張の糸が切れるような気がします。

私にとってシャッター音は、次の写真が撮られるまでのほんのわずかな「休憩時間」であり、気持ちをリセットするためのシグナルなのかもしれない、と感じたのです。

音が鳴ることで一度緊張がリセットされ、また次の表情が生まれる。音にはそんな役割もあるのかもしれないと思いました。

「撮影」の表紙に込められた秘話

トークの最後に、写真集「撮影」の表紙に採用されている淡いグリーン(若草色)の理由について明かされました。

実はあの若草色は、「iPhoneが苦手とする色」なのだそうです。私なら、スマホで撮影するとき、きれいに発色する色を表紙に選ぶと思います。

しかし、あえてスマホが苦手な色を表紙にすることで、デジタルやAIによる自動化へ対抗し、写真というメディアの質感や実体性を突きつけているようにも思えました。

自分の仕事とはまったく接点の無い話を聞くことができ、とても充実した1時間30分のトークでした。しかしアートの専門的な話には、ついていけない場面も多く、この解釈で良かったのかな?と、考えながら帰りました。

そのせいか、帰り道には「カメラで何かを撮る」という日常の動作が、いつもと少し違って見えました。

そして、ノートにあふれたたくさんの「○」と一緒に、じっくり噛み締めたい素晴らしいトークイベントでした。

【ご注意】

本記事は、当日に個人がとったメモや記憶をもとに構成した非公式のブログ記事です。専門的なお話も多く、一部聞き取りの違いやニュアンスの過不足がある可能性がございます。関係者の方で、万が一事実誤認がございましたら、お手数ですが「お問い合わせフォーム、もしくはXのDM等」よりご連絡いただけますと幸いです。速やかに確認・修正等、対応いたします。

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